世界経済は、近年の混乱下でシステミックな債務危機になりかねなかったのを回避したが、債務返済コストの増大が低・中所得国に重大な課題を突きつけており、依然として脆弱性が残っている。この先まだ大きな試練に直面する国もあるかもしれない。
債務でつまずく国がある場合には、被害を抑えるために再編が重要になる。再編はできる限り迅速でなければならない。なぜなら、再編が遅れると調整がより困難になり、債務者と債権者双方にとってのコストが増大して、困難が深刻化するからだ。様子見が長くなれば、仕事を失い貧困の拡大に直面する人々を苦しむままに放置することになる一方、債権者は回収を待つ間に損失が膨らむのをただ見ていることになる。これは、誰も得しない状況である。
一部のソブリン債務再編は大幅な遅れに直面しているものの、われわれはプロセスを加速させるべくカウンターパートと協力している。これまでに達成された進展は、いかにして世界がリスク軽減のために協力できるかを示している。
成果を上げ始めた共通枠組み
共通枠組みは、必要に応じて債権国を集めて債務再編を行いやすくするものだが、成果を上げ始めている。どのようにかというと、IMFプログラムに向けた重要なステップのひとつであるIMFの事務レベルの合意から、プログラムの承認に必要な公的債権者による資金保証の提供までの時間が短縮された。このことは、IMFが切実に必要とされる資金支援を当該国に提供すべくより迅速に動けるようになったことを意味している。例えば、今年、ガーナに関する合意はこれらのステップを踏むのに5か月を要したが、これは2021年のチャドと2022年のザンビアについてかかった時間の約半分となっている。エチオピアに関する交渉はさらに早まり、通例の2~3か月に近づく可能性が高い。
こうした改善が可能になったのは、中国やインド、サウジアラビアといった非伝統的な公的債権者との間を含め、利害関係者が協力の経験を積んできたことも一因である。初期の事例では、債権者間の調整の課題が生じていたが、プロセスに慣れることで当事者は何を期待すべきかをより良く理解できるようになり、信頼が構築され、債権者はそれまで障害となっていたものをより容易に克服できるようになった。
共通枠組み外における新興市場国向けの債務再編の加速に関しても進展が見られる。スリランカのケースは、それに先行した2021年のスリナム向けのプロセスよりも迅速だったが、それは債権者間調整の改善とセーフガード措置・保証についての理解向上を反映している。
グローバル・ソブリン債務ラウンドテーブルの効果
IMFと世界銀行、G20議長国は、昨年初め、技術的論点に関する様々な意見の相違を克服する助けとするために、グローバル・ソブリン債務ラウンドテーブル(GSDR)を立ち上げた。債権者と債務者の間の議論によって、どの債務が再編の対象となるかを決める債権者間の措置の同等性や情報共有、プロセス、タイムラインを含むいくつかの重要な側面で進展が見られている。これは、進行中の再編案件を加速させ、将来に向けた良好な基礎を築くのに役立っている。この進展は最近の報告書にまとめられており、大きな一歩である。
IMFによる債務政策の改革
IMFは、ソブリン債務再編の経験をもとに、プロセスのさらなる迅速化を図っている。IMF理事会は、4月に大幅な債務政策改革を採択した。
- この改革によって、総じて事務レベルの合意から2~3か月以内にIMFプログラムの承認を可能にするツールが提供される。例えば、債権者間の調整の問題が存在する場合に進行の助けとなるセーフガードなどを通じてである。プログラムの基本承認は、資金保証が具体化次第、支払実行を可能にするものであり、透明性が高まるとともに、複雑なケースを予定通りに進めやすくなる。
- この改革によって、資金保証の実現に関する新たな手続きが導入され、長期的により大きな柔軟性がもたらされることになる。それに伴い、IMFは、債権者の行動に基づき、また、約束の履行に関する債権者の履歴を考慮して、「信頼性のある公的債権者プロセス」が進められているか評価することになる。これは最終的に、公式レターを待つ現行の実務に比べて大幅に迅速化するだろう。
これらの改革によって、債務国に対するより迅速な関与が促進されることになる。遅れは危機を悪化させかねないため、これは重要なステップである。また、(プログラムのより早い承認が可能になるため、あるいは基本承認を通じて)債権者に対して再編に関する決定をより迅速に行う助けとなるより多くの情報が提供されることにもなる。それには、IMFの経済見通しや政策コミットメント、債務持続可能性分析に関する情報も含まれることになるだろう。これは、透明性を高め、再編プロセスに関与するすべての利害関係者と適時に情報共有を行うためのIMFの他の取り組みを補完するものである。
地政学的緊張の高まりによって、グローバルな経済協力が以前よりも難しくなっている。しかし、債権者や、より広くIMFの利害関係者が結集し、債務再編を必要とする国々を一致して支援しようとしている事実には勇気づけられる。このことは、最優先課題のひとつである国際的な債務アーキテクチャをさらに改善する上で非常に重要である。一部の国における債務水準の高さと法外な債務返済コストを踏まえれば特にそうだ。
次のステップ
われわれが遅れを短縮すべく努力する一方で、ソブリン・デフォルトと包括的な債務救済の要請が2021~2022年以降徐々に減少している点に注目する必要がある。目立った要請は、1年以上前のガーナの事例が最後となっている。市場は、今年初めに低所得国に対して再び門戸を開き、ベナンやコートジボワール、ケニア、セネガルが外国人投資家から資金を調達している。新興国債券のスプレッドはパンデミック前の水準に戻っており、新興市場国の債務返済可能性に対する投資家の信頼感を示唆している。
しかしながら、約15%の新興市場国についてはスプレッドがディストレスト水準にあり、脆弱性が浮き彫りになっている。同様に、低所得国では今後2年間に毎年約600億ドルの対外債務の借り換えが依然必要になる。これは、2020年までの10年間の平均の約3倍に当たる。低所得国の約15%が過剰債務に陥っており、さらに40%が過剰債務に陥る高いリスクを抱えている。
そのため、債務に関する進展を継続させる必要がある。GSDRは引き続き、公的および民間の債権者のプロセスを同時並行で進める方法や、流動性の課題への対処の仕方など、再編をめぐる未解決の重要課題に取り組むことになる。それには、協調的な流動性支援のための共通枠組みの活用、債務スワップや買い戻しといった流動性管理オペレーション、リスク共有手段を含む新規流入の支援方法など、各国向けの潜在的なオプション・メニューが含まれうる。
IMFは、自らの政策をソブリン債務ハンドブックにまとめ、今年中に公表する予定である。この明確化が、プロセスの効率化をさらに支えることになるはずだ。われわれはまた、世界銀行とともに、低所得向けの債務持続可能性枠組みが引き続き目的にかなったものになるよう、その見直しも行っている。
流動性逼迫の緩和
経済発展や気候変動対策のための莫大な長期資金調達ニーズを背景に、債務の課題に対処し、金利が高く資金調達ニーズが大きい中で困難を回避するためには、さらなる取り組みが必要になる。
借入国と債権者、そして国際社会には、それぞれ果たすべき役割がある。借り手は、経済成長を促進し、歳入を増やして、債務を持続可能な軌道に維持しつつ開発や気候関連の支出を捻出する余地を生み出すようにしなければならない。借入国における政策改革が成果を生むまでには時間がかかることを踏まえると、公的債権者はより多くの低コスト資金、とりわけ無償資金の動員を検討すべきである。IMFは引き続きこうした取り組みを支援し、譲許的融資の見直しなどを通じて適切な資金を提供していく。
近日公開予定のブログでは、借入負担の軽減と、多くの新興市場国・低所得国が直面している流動性逼迫の緩和に資するために、国際社会がどのように協力を継続すべきかについて詳しく説明する。